「生理時、妊娠時、思春期」と口臭がきつくなりやすい3つの時期を挙げましたが、これらに共通するのが「女性ホルモン」の量の変化です。
そのほか「閉経後の更年期」に起こる女性ホルモン分泌量の変化も、口臭と密接な関係があることが分かっています。

特に女性はニオイに敏感。
それは、相手から感じるものだけでなく、自分自身が発するものに対してもです。

いたずらに口臭に悩まないためにも、このホルモン変化を頭に入れておくことは大切です。
また、男性の方は奥さんや娘さんに対して心無く「口が臭い」と指摘しないように、女性の身体の神秘について知っておいて欲しいと思います。

さて、ここで問題になる「ホルモン」についてですが、これについて正しく理解している人は意外と少ないのではないでしょうか?

ホルモンとは、ひと言でいえば「体内で情報を伝達する物質」のこと。
女性ホルモン以外にも、人間の身体には100種類以上のホルモンが血液を介して体内をめぐり、全身の臓器や器官の働きを調整しています。

女性ホルモンは卵巣から分泌されるホルモンで「エストロゲン(卵胞ホルモン)」「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の2種類があります。

その昔、保健体育の授業で習った覚えのある方もいるかもしれませんが、排卵の準備をする「エストロゲン」と、妊娠・出産にかかわる「プロゲステロン」が交互に分泌されて女性は「月経」という1か月の身体のリズムを作っているわけです。

ただ、この2つのホルモンは常にバランスよく分泌され、きれいにリズムを刻んでいるわけではありません。初潮を迎えた10代はまだ分泌がスムーズにいかないのですが、20代~30代にかけて1か月のリズムが安定してきます。

そのリズムも35歳を過ぎるとちょっと卵巣が疲れてきて、40代を迎える頃には急激に女性ホルモンの分泌が減って、やがて閉経を迎えることになるわけです。

こうしたホルモン分泌量の変化によって、どんなお口のトラブルが発生しやすいかを順に解説していきますね。

 

1. 思春期(6~18歳くらい)

初潮を迎え「女性らしいからだ」へと目覚ましい変化を遂げていく時期です。
胸が大きくなったり、男の子にはないすべすべの肌・ツヤツヤの髪になっていくのも女性ホルモンの働きによるものです。

ただ、いいことばかりではありません。
プロゲステロンの量が増えると、歯茎が過敏になり少しの量の歯垢でも酷い炎症を起こして赤くはれたり出血したりします。
口内炎ができやすくなる人もいるようです。

これは歯垢の中に存在する細菌の中に、女性ホルモンを特に好んで繁殖する種類があるから。
女性ホルモンは歯茎と歯の間からも少しずつ染み出していてそれを餌として増殖していくわけです。

歯茎が腫れると、いつも以上に歯と歯茎に汚れが溜まりやすくなるうえに、痛みや出血を気にして歯ブラシが当てにくく磨き残しを作りやすくなってしまいます。
これが口臭の原因につながっていくという訳です。

これもやはりホルモンの働きで、もともと男性より唾液の量が少ないと言われるのに、さらに分泌が減って口が渇き最近の活動が活発化。
口内環境の悪化から口臭を酷くしてしまうという悪循環が起こってしまうのです。

これは思春期に限らず、女性ホルモンの変動を受けやすい生理前にも起こる現象です。
生理前に自分の口臭をいつもより強く感じたり、気になったりする方が多いのも女性ホルモンの影響からなんですね。

ちなみに、男性よりも女性の方が歯肉炎や歯周病にかかる確率が高いと言われているのも、女性ホルモンと関係があるからと考えられます。
ただし、しっかりとケアをして適切な処置をすれば悪化を防ぐことも可能ですし口臭を予防することもできるので安心してくださいね。

 

2. 成熟期(18~40歳代半ば)

この時期は、女性としてからだも心も成熟します。
もっとも女性ホルモンの分泌が安定し、月経のリズムもきちんと作られていきますが、注意したいのは「妊娠・出産」を迎えた時です。

妊娠12~13週には、エストロゲンとプロゲステロンの濃度が急激に上昇し、歯茎が過敏になります。
先ほども触れたように、歯垢が溜まりやすくなり女性ホルモンを餌にする歯周病の原因となる細菌が妊娠初期に比べ5倍に増えるというデータもあるそうです。

当然、口臭のリスクも高まりますので、いつも以上に丁寧なブラッシングを心がけ、歯科医院で定期的に歯石を取るなどのプラークコントロールをするようにしてくださいね。

赤ちゃんが生まれたら、歯科医院にしばらく通えなくなってしまいます。
その前に口臭の原因をシャットアウトしておきましょう。

あまりお腹が大きくなると、長い間椅子に座っての治療は困難になりますし、ちょっとした刺激が子宮の収縮を促して危険な場合もあります。

一般的にはつわりが落ち着いた安定期の4か月ごろから7か月くらいまでの間が、治療に適した時期と言われているので目安にしてください。
詳しくは、かかりつけの歯科医院でご相談くださいね。

 

3. 更年期(40歳代半ば~50歳代半ば/個人差あり)

女性ホルモンの分泌が急激に減り、閉経へと向かっていく時期です。
目安として、月経が定期的に来ているうちはまだそれほど分泌は低下していないと考えて構いません。

間隔があいたり、逆に早く来すぎてしまったりと周期が乱れてくるようになるとホルモンの分泌量が減ってきているサインです。現代ではおおよそ50~52歳で完全に閉経というのが平均のようです。

この時期、問題となるのは骨量と骨密度を保つのに重要な役割を果たしているエストロゲンの分泌量の低下。エストロゲンが減ると骨がスカスカになって骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が起きやすくなります。

実は、骨粗鬆症とお口の健康は密接な関係があります。
歯は歯槽骨(しそうこつ)という骨を土台にして本来がっちりと支えられているのですが、エストロゲンの減少でその歯槽骨もやせ衰えていきやすくなります。

特に女性は「歯周病リスク」も高いですから、それが進行するとさらに歯槽骨がどんどん溶け出して歯がグラグラになっていき、その隙間に歯垢が溜まって臭いが発生しやすくなってしまうのです。

それに加えて、更年期以降の女性は口の中が渇きやすくなります。
女性ホルモンは全身に潤いを保つ役割を果たしているのですが、分泌が減ることで唾液の量も低下していきます。

また、加齢により口周辺の筋肉(口輪筋)が衰え、噛む力が弱くなることも唾液分泌機能の低下を招きます。

口の中の乾燥は、口臭を発生させる菌の活動を活発化させニオイに直結していく現象。

女性ホルモンと同じ働きをするエストロゲンを含む大豆食品や骨をつくるカルシウムなどを摂取するなど食生活を改善するとともに、意識的にお口の中の「潤い」を保つケアが必要と言えるでしょう。

 

以上、3つのステージに分けて「女性ホルモン」と「からだの変化」「口臭リスク」について解説してきました。
知っているのと知らないとでは、対策の立て方も変わってきます。

「今はこういうからだの変化があるから口臭が強くなりやすい時期なんだ」
と理解して、むやみに悩まず前向きにケアをすることが大切です。